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高嶺に吹く波風
高嶺に吹く波風
Author: ニゲル

1話 キュアヒーロー

Author: ニゲル
last update Huling Na-update: 2025-04-20 18:59:28

「なぁなぁ先週のキュア配信見たか?」

「あぁキュアノーブルの? 相変わらず強かったよな〜」

私達の横を同学年の男子達が他愛のない話をしながら通過する。

「でもさ……キュアウォーターも良くなかったか? あの青い新人の子」

会話の中にある一つの単語に反応し、盗み聞くわけではないがより神経を耳に集中させてしまう。

「あぁあの子? 新人なのに気合い入っててすごいよな〜何より可愛いし」

(か、可愛いか……うへへへ)

つい笑みが溢れてしまう。何を隠そうとこの私が今二人が話しているキュアウォーターなのだから。

「高嶺《たかね》? 何気持ち悪い顔してるの? あとボッーと歩かないで車に轢かれるわよ」

私の大親友である波風《なみか》ちゃんが横断歩道の前で肩を掴み止めてくれる。信号は赤になっており先程の男の子達は既に横断歩道を渡り終えていた。

「あっ、ごめん! ちょっと考え事してて……あはは……」

「アンタ最近ボーッとしてること多いわよ。何かあったの?」

「え……いや……何もないけどぉ?」

波風ちゃんは相変わらず勘が鋭い。それに対して私は嘘をつくのが下手で彼女から疑いの眼差しを現在進行形で向けられる。

「はぁ……別にいいわよ隠しても。でも何かあったらアタシを頼りなさいよ」

「あはは……そうなったらごめんね」

なんだかんだ言ってかれこれ十年以上の付き合いだ。お互い信頼し合っている。

[おい高嶺大変だ! またイクテュスが出た! しかもここから近い!]

私達が仲良く通学路を歩いている最中。無粋にも突然脳内に私だけにしか聞こえない声、テレパシーが届く。

[今!? 通学路に居るんだけど……それも友達と一緒に! どうしよう!?]

私は口を閉ざしたままテレパシー上で応答する。

[そこなら近くに公園がある! トイレに行くふりをしてコピー人形と成り代わるんだ!]

(う、うぅ……ごめんね波風ちゃん。これも街を守るためだから!)

「い、いててて……ごめん波風ちゃん! お腹痛くなっちゃって。トイレ行ってくるから先に行ってて!」

私は近くの公園へと駆け出し波風ちゃんを置いていく。

「え? 高嶺!! 学校間に合うのそれ!? ちょっと!!」

こちらを呼び止めようとする彼女を無視し心の中で謝罪しながら公園へと駆け込む。

「ここなら誰も見てないよね」

公園は学校のグラウンド程広く、木々が生えており死角も多い。私は人があまり立ち入らない所まで行き鞄から人形を取り出す。

「ごめんね……またお願い!」

私はその人形に触れながら念じる。すると人形はメキメキと音を立てて服まで私そっくりの姿へとなる。

「はいこれ鞄! すぐ戻るからよろしくね!」

「うん! というか大丈夫だよ。一応記憶とかも私のままなんだし、24時間しか活動できないことを除けば本人ままなんだから。とにかくこの街を頼んだよ私!」

流石は私のコピーだ。この街を守るという使命を強く抱いている。コピーは何事もなかったかのように通学路に戻り学校に向かう。

「誰もいないよね……?」

誰にも見られていないことを確認し、私は鞄から取り出しておいた水色のブローチを取り出す。

それを服に付けると私の目の前に青色の装飾が施されたステッキが、先に透明な球体が付いているマイクにも見える魔法の道具が現れる。

「よし……キュアチェンジ……!!」

私はそのマイクに向かって魔法の言葉を唱える。

体が淡い光に包まれ服が変わっていく。海のような色の紐が両肩と胸の前で絡まっていき巨大なリボンを形作る。腰には純白のフリルのスカートが巻かれ髪も変化が起きる。伸びて澄んだ空色へと変化し、まるでファンタジーのお姫様のようだ。

[場所はいつも通り頭の中に送っておいた! すぐに向かってくれ! 配信は頃合いを見て始めるから頼むぞ!]

[りょーかい! すぐに行くね!]

私は地面を強く蹴り数メートル跳んで一気に公園の外に着地する。そして家の屋根を伝い、送られてきたモンスターの反応を感じる方に一直線に駆けていく。

《キュア配信始まったー! てか、またイクテュス出たのか!?》

《あれこれ俺の家の近くじゃん! もしかして近くに居るの!? やばいじゃん!! 頑張ってキュアウォーター!!》

左手首に付いているリストバンドから映像が浮かび上がる。そこには私を俯瞰視点で見下ろした光景が映っており、たくさんのコメントが、私への期待と”希望”を込めたものか流れている。

(力が沸いてくる……みんな私に希望を抱いてくれてるんだ……!!)

異形の怪物を倒す正義の魔法少女、プリティーヒーローは人々の希望を力に変えて戦う。そして先程テレパシーを送ってきた妖精のキュアリンがこのリストバンドを通して配信を行ってくれている。

こうすることで配信を見た人々から希望が送られてきて私達の力になるのだ。

「みんなの笑顔を守るために、正義のヒーロー、キュアウォーターいっくよー!!」

私は増した力で速度を上げてイクテュスの所まで急ぐのだった。

________________________

キュアヒーローの掟その1

キュアヒーローは人々の希望を力に変え戦う。希望を集められる範囲は日本列島を覆える程度である。

彼女達は人々に希望を抱かせ続けさせなければならない。

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